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「ワーカーズ・ダイジェスト」 ★★★☆☆

「ワーカーズ・ダイジェスト」

 「ワーカーズ・ダイジェスト」  津村記久子さん (集英社) 1260円

 
 会社員時代、長時間労働で、自分の時間があまり持てなかった。仕事に差し支えるので、20数年間にわたって、文芸書と連続テレビドラマは自分に禁じていた(ついでに言えばゴルフと麻雀も)。仕事関連の本、雑誌、新聞、テレビニュースに目を通すのが精一杯。

 文芸書をあまり読んでいないので偉そうなことは言えないのだが、津村記久子さんほど、現代の普通に働く人たちの何げない日常の心象風景を、巧みに描ける人はいないのではないか。

 津村さんは、太宰治賞、野間文芸新人賞を受賞し、たしか30歳くらいで「ポトスライムの舟」で芥川賞を受賞した。受賞の時のインタビューの答えが印象的であった。大阪の小さな会社に勤めていて、「私、会社辞めませんから。今後もずっと勤め続けます。職場のみなさま今後ともよろしくお願いします」と語っていた記憶がある。

 別のところでは「自分にとっては、働くことは生きるということです」とも語っている。

 若い時、友人と一緒にスキーに行ったときのこと。私たちはほぼ初心者にもかかわらず、コブだらけの急斜面の上級コースで滑っていた。営業マンの友人が山の頂上でつぶやいた一言が忘れられない。「スキーはいい。必死にすべっている時だけは、仕事のこと、数字のことを忘れられる」

 働き続けていると、澱のようにストレスが溜まってくる。しかし、一面、働くことは救いでもある。
 取引先や会社の理不尽さに堪え、人間関係に悩みながら、自分なりに作りあげた人として守るべきものを守って、働き続ける普通の人たち。
 
 この度の東日本大震災でも、そのことに光明を見出した。働くことの第一義は生活の糧を得るためであるが、普段は働くことの意味がなかなか分からない。自分はなんでこんなことをしているのだろうと疑問を感じながら働いていることが多い。しかし、この度の震災のような場合は、働くことが誰かの役に立っていることがダイレクトに感じられる。また、懸命に働くことによって、その間だけは、苦しみ悲しみを忘れられる。

 津村記久子さんの本を読むと、心に小さなあかりが灯る。それがいい。


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(追記……11年8月17日)

 毎日新聞 11年8月16日の文芸欄で、津村記久子さんが紹介されている。

 「東日本大震災を受け『いろいろな人たちの下支えのお陰で自分がいる。ちゃんとせな』と思うようになった。創作への影響を否定しない。『これから私が書く作品の登場人物は問題解決に向け、全力を尽くそうとする気がします』


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(追記2……11年12月14日)

 津村さんの「ワーカーズ・ダイジェスト」が、第28回織田作之助賞を受賞しました。

プロフィール

teccyan88

Author:teccyan88
団塊の世代(♂)。うどん県高松市生まれ。大学は京都。20数年の会社員生活(四国各地・東京・広島・福岡勤務、主として経営管理・企画畑を歩む)の後、早期退職しUターン。専門学校(3年)ののち自営業。
趣味:読書、水泳、水中ウォーキング。
尊敬する人(敬称略):空海、緒方洪庵、勝海舟、大久保利通、司馬遼太郎、盛田昭夫、小倉昌男、佐々木常夫、西原理恵子、足立康史、竜崎伸也ほか多数。

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