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「あの戦争と日本人」から ★★★★☆

「あの戦争と日本人」から

 「あの戦争と日本人」 半藤 一利さん (文藝春秋) 1600円

 
 「あの戦争と日本人」の第十一章 「昭和天皇と日本人」から抜粋

 「明治三十六年(1903)春から、帝政ロシアの強硬な南下政策によって、満州はおろか朝鮮半島も占拠される危険が昴まり、日本の諸権益は風前の灯となっていました。日本政府は戦争に訴えてもこれを守るかどうかの決をとる必要にせまられます。ロシアとの直接交渉は、決裂という最悪のときには一戦も辞せずの覚悟がなくてはできない」

 「最後に及んでロシア政府は、朝鮮半島の北緯三十九度以北は中立地帯とすること、満州は日本の権益外の地であると公表せよ、という高圧的な要求を突きつけてきた」「戦いたくはない日本政府は完全に追いつめられていたのが実情です」

 「満州全土にはロシアの戒厳令が布かれ、二月三日にはウラジオストク在留の日本人に退去命令がでました。ことここに及んで、明治の指導者たちはついに対ロ戦を決意する」

 「伊藤(博文枢密院議長)は(明治天皇に)率直に言上します」
 『いまや国の存立を賭けて戦わねばならぬ時機がまいりました。……陛下におかせられましても、重大なお覚悟をもって、日露開戦に臨んでいただきたく存じます』

 「満州派遣軍総司令官の大山巌大将は山本権兵衛海相に、『戦さはなんとか頑張ってみますが、刀を鞘に納める時期を忘れないでいただきます』と言い残して出征しました」

 「米国の理解と協力をとりつけ、外債をつのるため金子堅太郎がアメリカへ出発の直前、児玉源太郎参謀次長に成算のほどを訊ねたとき、『どうにか五分五分までゆくだろうが、それでは解決せぬから、せめて四分六分にこぎつけようと痛心している。だから何より早めに講和だ』と答えたそうです」

 「伊藤、山県をはじめとする明治の指導者のすぐれたところはここにあります。戦端を開く、と同時に、いかにしてこの戦いを早期に和平へもちこむか、その困難な道の打開へもいち早く手を打つことを、誰もが考えていたのです。かれらはまた列強の勢力バランスへの目配りもよく、国際情勢への認識もまた確かでした」

 「日本の軍事力にたいする懸念やロシアの軍事力にたいする判断、必要とする巨額な戦費調達の困難さについても、十二分にわきまえていた。長期の戦争に国力が耐え得ないことも痛烈に自覚していた」

 「昭和の指導者との根本的な違いがそこにはあります」

 
 「残念ながら昭和の指導者たちは客観的におのれのおかれた状況をみる冷徹な目をもちえませんでした。要するにリアリズムに徹しきれなかったんです」

「自分に都合のいいようにのみ主観的に状況を判断し、齟齬をきたすようなことは起こらないものと決めていた。無敵皇軍という夢想から脱しきれず、戦争終結の方途など深く考えることなく、最悪の予想すらしなかった」

 「こうして二つの戦争決断の事実を学べば学ぶほど、昭和天皇は何と無鉄砲にして無責任な人たちによって輔弼・輔翼されていたことか、と思わないわけにはいかないですね」

 
 「明治の栄光のあとに、国家建設の苦闘も悲惨も知らずに、その栄光だけを後光に背負った人たちが、昭和の指導者となったわけです。彼らは進むことだけ知って、停まって考えることをまったくしなかった。満州事変、上海事変、二・二六事件、日中戦争、ノモンハン事件、動乱につぐ動乱でありました。三国同盟、南部仏印進駐、真珠湾奇襲攻撃……」

 「指導者たちが傲慢になることなく、謙虚に、真面目に、カッカとなることなく冷静によく考え、その折々の選択を誤らねば、こんな悲惨を迎えなくてもすんだと考えます」

 「明治の栄光のみを背負って苦労の体験のなかったものたちばかりが指導者となって、戦前の昭和を悲惨なものとしてしまったのです」

                                                       以上
 
 
プロフィール

teccyan88

Author:teccyan88
団塊の世代(♂)。うどん県高松市生まれ。大学は京都。20数年の会社員生活(四国各地・東京・広島・福岡勤務、主として経営管理・企画畑を歩む)の後、早期退職しUターン。専門学校(3年)ののち自営業。
趣味:読書、水泳、水中ウォーキング。
尊敬する人(敬称略):空海、緒方洪庵、勝海舟、大久保利通、司馬遼太郎、盛田昭夫、小倉昌男、佐々木常夫、西原理恵子、足立康史、竜崎伸也ほか多数。

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