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「完全黙秘」 ★★★★☆

「完全黙秘」

 「完全黙秘」 濱 嘉之(はま・よしゆき)さん (文春文庫) 690円


 私は、濱 嘉之さんの小説をほとんど読んでいるようである。
 
 いま警察小説は、空前のブームといっていい。
 事件(犯罪)には、いろいろな人間の感情、欲望が集約されている。その事件を扱う警察の活動のどこに、どのように焦点を当てるかによって、無数の表現が可能である。実に魅力的な「器」といえる。

 濱さんの警察小説の魅力は、その経歴に由来するところが大きい。元警視庁公安捜査官。警察庁警備局、内閣情報調査室(内調)にも勤務。警視庁警視で辞職。衆議院議員政策担当秘書を経て、危機管理コンサルティング会社代表を務めつつ、小説も書いている。

 警察活動は、大きく刑事と公安に分かれる。刑事は私たちになじみが深い。刑事と公安は水と油。

 公安の活動はほとんど表に出てこない。公安の活動は表に出たら終わり、のようなところがある。常に情報収集に努め、表に出る前にツブすのが仕事。表に出てもそれが真実かどうか、ほとんどの人には分からない。公安関係者でさえ、全体像を把握しているのはせいぜいトップの数人ということも。だから、小説になりにくい。部外者だと、取材しにくく、かなりの部分を想像で補わざるを得ないから、どこかウソくさいものになる。

 この「完全黙秘」は、政治家、暴力団、芸能界などが絡み合う壮大なストーリ。濱さんの実体験にもとづく話が各処に散りばめられている(はず)。体験したものでないと書けないようなリアルなことがギッシリつまっている、ような気がする。

 あるいは元公安捜査官としての濱さんの夢かもしれない。かつて経験したA案件とB何件とC案件を少し形を変えて、合成したものかもしれない。7割が実話にもとづき、3割がフイクション、かもしれない。しかし、部外者が取材や想像でこれだけのものは書けない。

 この作品は文庫のために書き下ろされたものだという。もったいない気がする。

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 小説から離れる。
 
 公安警察は常に「国家と国益」を考えているという。公安警察は、確かに国家にとって不可欠なものである。

 公安は、どこの国でも、秘密のベールに包まれている。公安の標的になったものは、徹底的に調べられ丸裸にされる。時には、1人に対して20人もが、徒歩、バイク、車などで、代わる代わる追尾することがあるという。濱さんの別の作品にあったと思うが、最新の電子機器を使ったり、近くのビルの一室を何カ月にもわたり借り上げて見張る、といったこともするという。「国益」のために大事の前の小事を見逃したり、自ら違法捜査に手を染めることもある(だろう)。コツコツコツコツ情報を集める。情報は力である。

 予算も潤沢にある。仕事の性質上、何にいくら使ったかは外に向かって説明しない。一般警察でさえ、裏金が全国的に大問題となった。公安はほとんどが秘密である。腐敗しやすい。
 
 そういう組織を、誰が、どのように「統制」するのか、という問題が常にある。

 アメリカ大統領は、毎朝CIA長官などのブリーフィングを受ける。大統領になった者は誰でも、いかに世界中に流されているニュースにウソが多いか、表向きのことばかりであるかに、驚くという。

 敗戦直後の日本や、ソ連邦解体後のロシアなどでは、秘密諜報機関出身者による国家資産の奪い合い、横領が相次いだという。それを元に、政財界の黒幕やフィクサーに君臨している。

 情報とカネと武力と知力と組織をもった公安関係の人たちが、「国益」ではなく「私益」を優先したり、間違った「国家」観の持ち主であったらと考えると、背筋が凍る思いがする。


以上
プロフィール

teccyan88

Author:teccyan88
団塊の世代(♂)。うどん県高松市生まれ。大学は京都。20数年の会社員生活(四国各地・東京・広島・福岡勤務、主として経営管理・企画畑を歩む)の後、早期退職しUターン。専門学校(3年)ののち自営業。
趣味:読書、水泳、水中ウォーキング。
尊敬する人(敬称略):空海、緒方洪庵、勝海舟、大久保利通、司馬遼太郎、盛田昭夫、小倉昌男、佐々木常夫、西原理恵子、足立康史、竜崎伸也ほか多数。

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