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領土問題 背景には米国が

領土問題 背景には米国が


 朝日新聞12年9月11日「わたしの紙面批評」欄に神戸女学院大名誉教授の内田 樹たつる)さんが一文を寄せている。ご紹介します。


 領土問題の緊迫化
 背景に政権基盤と米国
 新聞は報じたがらない


(本文抜粋)

 竹島と尖閣で領土をめぐる問題が緊迫化している。領土問題を論じる場合つねに念頭に置いておくべきだが、新聞があまり書いてくれないことが二つある。

 第一は領土問題の解決方法は二つしかないということ。一つは戦争。勝った方が領土を獲得する。もう一つは外交交渉。双方が同程度の不満を持って終わる「五分五分の痛み分け」である。

 両国の統治者がともに政権基盤が安定しており、高い国民的な人気に支えられている場合にしか外交交渉は行われない。

 中国とロシアの国境紛争は先年「五分五分の痛み分け」で解決したが、これはプーチン、胡錦濤という両国の指導者が国内のナショナリストの抵抗を押し切れるだけの安定した統治力を有していたからできたことである。

 韓国の李明博大統領は支持率20%台に低迷していたが、竹島上陸で最大5%を稼いだ。その代償に大統領は外交交渉カードを放棄した。本当に力のある政治家はこんなことはしない。

 尖閣についても同様。中国政府が今強い出方をしているのは内政に不安があるからである。

 72年の日中共同声明で、周恩来首相は「日本国に対する戦争賠償の請求を放棄することを宣言」し、「主権及び領土保全の相互尊重、相互不可侵、……の諸原則」を確認した。

 78年の談話で鄧小平副首相は尖閣について、「こういう問題は、一時棚上げしてもかまわない」「次の世代は、きっと我々より賢くなるでしょう。そのときは必ずや、お互いに皆が受け入れられる良い方法を見つけることができるでしょう」

 政権基盤が安定しており、補償問題・領土問題でどのような譲歩カードを切っても、それによって国内の統制が乱れる不安のない「強い政治家」にしか口にすることのできない言葉である。

 どこの国でも、領土問題の炎上と鎮静は政権の安定度と相関する。その意味で領土問題はつねに国内問題である。これが第一だ。


 第二日本の場合、領土問題は2カ国問題ではなく、米国を含めた3カ国問題だということ。

 米国は竹島、尖閣、北方領土のすべての「見えない当事者」である。これらの領土問題について、問題が解決しないで、日本が隣国と軍事衝突に至らない程度の相互不信と対立のうちにあることによって自国の国益が最大化するように米国の西太平洋戦略は設計されている

 もし領土問題が円満解決し、日中韓台の相互理解・相互依存関係が深まると、米国抜きの「東アジア共同体」構想が現実味を帯びてくる。それは米西戦争以来120年にわたる米国の西太平洋戦略の終焉を意味している。米国は全力でそれを阻止しなければならない。

 私は米国が「悪い」と言っているのではない。自国の国益を最優先に配慮して行動するのは当然のことである。領土問題で、米国の国益と日本の国益が背馳することもあるという自明のことを新聞は報じたがらないので、ここに記すのである。


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(感想・意見など)

  私は内田樹さんとは意見を異にすることが多いが、この件に関しては同意見である。内田さんのこの意見は、12年9月19日のブログでご紹介した孫崎享うける)さんの「戦後史の正体」に通じるものである(私は孫崎さんとも意見を異にするが…)。

 イギリスの例。イギリスは戦前まで世界中に植民地を持っていたが、戦後それらの国が次々と独立していった。その際、イギリスは、旧宗主国であるイギリスに敵意が向けられないよう、異なる人種・民族・言語、宗教間、あるいは支配層と被支配層で、お互いにいがみあうようなタネを慎重に仕掛けたという。

 アラブとイスラエルの問題、インド(ヒンドゥー教)とパキスタン(イスラム教)の問題などはその好例。現地の支配層の子弟にはイギリス本国の高等教育を受けさせ、現地人にはほとんど教育を与えなかった。国境の線引きをする際も、のちのちもめるような線引きの仕方をした。それが奏功して、今に至るも内輪もめばかりしている。イギリスに限らず、「分断統治」は植民地宗主国の常套手段(*)。

 これなど国際政治、国際関係のほんの一例である。日本の学校教育、マスコミなどはそういう現実をほとんど伝えない。「友愛」「平等」とか「連帯」とか、ソフトクリームのようなことばかり伝えている。

 自分がそういうことをするとかしないとかとは別問題。「べき」と「である」は峻別すべきである。冷厳な国際政治の現実はキチンと伝えるべきである。


 (*)一例として。12年10月3日の毎日新聞「ルポ ミャンマー民主化」の中にこう書かれている。

 「英国は勇敢なカチン族を兵士として重用。冷遇した仏教徒の多数派ビルマ族との反目を利用した『分断統治』はこの国の内戦のルーツでもある」


以上


プロフィール

teccyan88

Author:teccyan88
団塊の世代(♂)。うどん県高松市生まれ。大学は京都。20数年の会社員生活(四国各地・東京・広島・福岡勤務、主として経営管理・企画畑を歩む)の後、早期退職しUターン。専門学校(3年)ののち自営業。
趣味:読書、水泳、水中ウォーキング。
尊敬する人(敬称略):空海、緒方洪庵、勝海舟、大久保利通、司馬遼太郎、盛田昭夫、小倉昌男、佐々木常夫、西原理恵子、足立康史、竜崎伸也ほか多数。

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