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旗本・御家人

旗本・御家人




 
 佐藤 雅美まさよし)さんの本は、時代考証が確かだとの定評がある。

 『縮尻鏡三郎』しくじり・きょうぶろう:文春文庫)から、「旗本・御家人」について抜粋してみたい。

 (一般的に言って、旗本は御目見以上、100石~1万石未満。御家人は御目見以下、100石以下)


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 鏡三郎は七百石取りの旗本の次男坊。旗本、御家人は長男以外は養子の口でも見つけないかぎり、部屋住みといって、一生を、嫁も貰えない当主の厄介者で過ごさなければならない。そこで父は鏡三郎の将来を哀れみ、養子の口を探してきた。

 昔は跡取りが決まっていなければ即、改易(御家断絶)だった。そのため悲劇がさまざま繰り広げられたのだが、世も落ち着いてくると末期養子まつごようし)を認めようということになった。当主は死んだのに、生きているように装わせて養子を認めるという制度だ。鏡三郎もその末期養子となった。五つのときのことで、養子先は九十俵三人扶持の拝郷はいごう


 旗本にしろ御家人にしろ、役人生活の出世双六(すごろく)のあがりは勘定奉行か町奉行だが、旗本と御家人では入口のところの間口の広さが違った。

 旗本は御小姓組番(おこしょうくみばん)、御書院御番(ごしょいんごばん)大番などにいわゆる番入りすることによって役人生活をはじめた。間口はかなり広かった。

 御家人は、勘定所に採用してもらうというのが出世の唯一の間口で、この間口がとてつもなく狭かった。

 どんな社会でも、放っておくと既得権者に都合のいいように仕組みは出来上がっていく。勘定所もそうで、有力者は後継ぎを見習いとして勘定所に潜り込ませ、頃合いを見てこっそり本採用になおした。縁故のない者にとって、間口は極端に狭くなっていた。


 拝郷鏡三郎は七つ八つのころから、勘定所に採用してもらい、末は勘定奉行か町奉行をと目指した。

 就職を希望する場合、御家人は、「書上」(かきあげ)という芸術(学問武芸一般)届を自分が属する小普請組(こぶしんぐみ)の頭(かしら)に提出した。

 芸術届は、学問は誰、剣術は誰、手跡は誰、算術は誰に学んだといういわば履歴書だ。履歴書にはくをつけるためもあって、鏡三郎は七つ八つのころから、名のある先生や師匠につき、脇目も振らずに学び、励んだ。

 就職希望者、つまり競争相手は多い。勘定所を希望するとなるとなおさらだ。なにより、推薦者となる、所属する小普請組の頭や支配(しはい)(頭が副で、支配が長)に顔を覚えてもらい、人となりを知ってもらわなければならない。

 〝逢対日(あいたいび)〟という。お偉方を、訪ねていいとされている公式訪問受付日だ。小普請組の頭の逢対日は毎月十日と晦日(みそか)。支配の逢対日は六日、十九日、二十四日。就職希望者は、月に五日の逢対日には、欠かさず頭支配の屋敷を訪ねてご機嫌を伺った。

 ご機嫌伺いは逢対日と限られているわけでない。〝日勤(にっきん)〟といって毎日通う者もいた。鏡三郎も競争相手に後れをとるものかとばかり、毎日のように頭支配の屋敷に通ってご機嫌を伺った。

 目指すは勘定所である。勘定所のお偉方、両勝手方勘定奉行(財政・民生担当)、両公事方勘定奉行(訴訟担当)、勘定吟味役の屋敷にも顔をだしておいて損はない。老中の屋敷にもだ。それらの屋敷にも、逢対日には必ず顔をだした。

 すると、朝は朝星夜は夜星ということになる。朝暗いうちに家をでて、あちらの屋敷、こちらの屋敷と挨拶まわり、家に帰り着くのは毎日、日が暮れてから。家に帰れば帰ったで、庭先で剣術の稽古。食事を終えたあとは深夜まで学問に励み、算術や手跡に磨きをかけた。

 就職を希望できるのは十七の歳からとなっていて、十七の歳からまる六年、鏡三郎はそんな死に物狂いの就職活動を続け、二十三歳になってやっと勘定所に採用された。

 運よく採用されても、そこにはまた新しい競争相手がいる。昇進がまたすこぶる難しい。



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(感想・意見など)

 現在も就職が難しいと言われているが、とんでもない。江戸時代のほうがよっぽど生存競争が厳しかったようである。江戸時代は調べれば調べるほど面白い。


以上


プロフィール

teccyan88

Author:teccyan88
団塊の世代(♂)。うどん県高松市生まれ。大学は京都。20数年の会社員生活(四国各地・東京・広島・福岡勤務、主として経営管理・企画畑を歩む)の後、早期退職しUターン。専門学校(3年)ののち自営業。
趣味:読書、水泳、水中ウォーキング。
尊敬する人(敬称略):空海、緒方洪庵、勝海舟、大久保利通、司馬遼太郎、盛田昭夫、小倉昌男、佐々木常夫、西原理恵子、足立康史、竜崎伸也ほか多数。

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