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貧乏大名

貧乏大名
旗本・御家人




 江戸時代の中ごろにもなると、どの藩も財政に苦しむようになっていた。時代小説を読んでも、元禄を過ぎるころからは、武士は貧乏が定説になっている。

 佐藤 雅美さんの『縮尻 鏡三郎』しくじり・きょうざぶろう)に面白い例があった。ご紹介します。



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 【登場人物】

拝郷 鏡三郎はいごう・きょうざぶろう:主人公、御家人、大番屋の元締め)
三枝帯刀能登守さえぐさ・たてわき・のとのかみ:公事方勘定奉行、鏡三郎の元上司・友人)
・  〃   の奥方 於柚おゆう


 
 「下総しもうさ佐山堀池家についてだが、面白い話を耳にした」
 下総 佐山堀池家というと十一万石で、これまでに老中首座を二人もだしている。

 「堀池家の貧乏話、耳にしておるか?」
 
 「御大名の貧乏話は腐るほどありますから」

 「これはこのほど、御普請役(ごふしんやく)が下総佐山にでかけて行って調べた見聞書の写しだ」
 御普請役は勘定所の下級役人で、ときに隠密役も果たした。

 「一つ。昨年十月のこと」
 と能登守は読みあげる。

 「神保某(しんぼぼう)の妻が病死した。寒気の厳しい時期だったが単衣物ひとえもの)一枚で死去した由。
 一つ。御役を勤めている者でも寒中にあわせ一枚の者もいる。その者の妻は着る物がなく、半纏はんてんに前垂れをして前を隠している」

 「ひやア!」
 奥方の於柚が素っ頓狂な声をあげて、たしかめるように聞く。
 「まことでございますか?」
 「半纏に前垂れというと、お尻はすっぽんぽんではございませんか」

 「そういうことになる」
 
 「御役を勤めている方の奥方ともあろうお方が、なんとまあ」

 「続ける」
 と能登守。

 「一つ。無足(むそく:扶持米取り)の者の中には、家内一同寒中に帷子かたびら)一枚でわら)の中で寝ている者もいる。
 一つ。給人(きゅうにん:知行取り)の屋敷持ちの中にも、寒中に壁は破れたままで、そのうえ戸障子なしでしのいだ者もいる。
 一つ。臨海寺(りんかいじ)の近所の士()は毎朝、仏前の供物(そなえもの)を盗んで食っている
 一つ。昨年の暮れ、家中で餅をつかなかった家が三十八軒ある。餅はついたが、鏡餅を質に入れ、受け戻せなかった者もいる。
 一つ。新しく質屋ができたが、古下駄、古足袋、火箸、味噌、摺子木の類を質に入れ、受けだせなかった者もいる」

 「ですがなぜそんなひどいことに?」
 
 「もとはといえば長年の貧乏で、年貢が先々まで担保に入ってしまい、収穫期を迎えても一銭も入ってこなくなったからだと」

 「そんなわけで佐山堀池家の家老ら重臣は、蔵元の一人石田弥兵衛に相談した」
 石田弥兵衛はあちらの屋敷こちらの屋敷にと出入りしている、江戸で有数の掛屋かけや)、つまり金融業者である。

 「結果、弥兵衛が堀池相模守の勝手(かって:財政)一切を引き受けることになり、これまでの借財は弥兵衛が片付け、家中の者は引き続き年貢収入なしに遣り繰りすることになり、当代の相模守は弥兵衛から月々わずかの仕送りを受けて生計を立てることになった。それで、相模守殿は毎日三度三度の食事を、薩摩芋か里芋、もしくは馬鈴薯の入った味噌汁に、小者が総菜屋から買ってくる沢庵、もしくは奈良漬一舟で我慢しておられるのだとか」

 「当代の相模守というと、たしかまだ二十(はたち)くらいのはず」

 
 「その相模守殿が今年の春、筑前の笠原大膳大夫(だいぜんのだいぶ)家から花嫁を迎えられた。御大名とて我らと変わらない。楽しい新婚生活がはじまるはずだった。ところが、味噌汁に香こうの物ばかりという食事が朝昼晩と三度三度続く花嫁はびっくり。さりとて食い物がひどいというのを口実に逃げ出すわけにはいかない。時機を窺がっていて二月後、法事で里帰りしてそれっきり。病を患って寝ついてしまいました、と理由を構えて戻らなかった。つまり相模守殿は新婚の奥方に逃げられてしまった

 「おかわいそうに」


(以上)


プロフィール

teccyan88

Author:teccyan88
団塊の世代(♂)。うどん県高松市生まれ。大学は京都。20数年の会社員生活(四国各地・東京・広島・福岡勤務、主として経営管理・企画畑を歩む)の後、早期退職しUターン。専門学校(3年)ののち自営業。
趣味:読書、水泳、水中ウォーキング。
尊敬する人(敬称略):空海、緒方洪庵、勝海舟、大久保利通、司馬遼太郎、盛田昭夫、小倉昌男、佐々木常夫、西原理恵子、足立康史、竜崎伸也ほか多数。

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