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『氷川清話』から①

氷川清話から①
氷川清話から①




 
 『氷川清話』ひかわせいわ)は勝海舟晩年の語録である。私は、角川文庫版、勝部真長(かつべ・みたけ)編を、学生時代から度々読んできた。いい話がいっぱいあるが、最も好きで、有名な青年時代の逸話を抜粋してご紹介します。



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 海舟は本屋の店頭でオランダの兵書を見つけた。「五十両」という(今で言うと500万円くらいか?)。その本が欲しくてたまらない。駆けずり廻って、なんとか五十両の金策に成功した。喜んで本屋にかけつけてみると、もうその本は売れてしまっている。

 海舟は残念でならない。本屋のおやじにその買い主の名を聞いた。「四谷大番町に住む与力の○○さんです」。海舟はすぐにその与力某を訪ねて、その本を譲って頂きたい、と申し入れた。しかし、その与力は海舟の申し入れを断った。海舟は、「それなら暫らく拝借させてくれまいか」と頼んだ。しかし与力は、「この本は自分も読みたいので、お貸しするわけにはいかない」と断った。

 たいていなら、ここで諦めて引き下がるのが普通だが、一向に諦めてしまわないところが海舟である。「あなたがお読みになる間はその本がご入用であろうが、就寝後の時間は、その本はお空きであろう。その空いている時間だけ借覧させて下さらぬか」と押して頼む。

 与力某もこれには折れたが、「それなら、四つ(午後十時)過ぎには、寝に就くから、四つから翌朝までお貸し申そう。ただしこの書物は、門外不出の貴重なものであるから、拙宅へ来て読んで頂きたい」と答えた。そこで海舟は、それから毎晩、本所から四谷大番町まで一里半(約6㌔)の道を通いつづけて、その本を写し始め、これも半年で全部写し取ってしまったという。

 最後の日に、海舟はその与力の好意に礼を述べながら、書中の二、三の不審な点を質問すると、与力は驚いて言った。「拙者はこの本を所蔵しているが、まだ全部を読みきっておらぬのに、あなたは夜だけ通って、写していながら、拙者のまだ読んでいない箇所まで読み切り、その意味を質問されるとは、その根気強いのに、ただ感服のほかはない。この本はあなたのような方が所蔵されるのが適しいと思うから、あなたに進呈します」

 海舟は辞退したが、「どうしても取ってほしい」といってきかないので、とうとうその本を譲り受けたという。

 後に、金に困ったとき、写本のほうの一部八冊を売ったところ、三十両で売れたということである。



(以上)
プロフィール

teccyan88

Author:teccyan88
団塊の世代(♂)。うどん県高松市生まれ。大学は京都。20数年の会社員生活(四国各地・東京・広島・福岡勤務、主として経営管理・企画畑を歩む)の後、早期退職しUターン。専門学校(3年)ののち自営業。
趣味:読書、水泳、水中ウォーキング。
尊敬する人(敬称略):空海、緒方洪庵、勝海舟、大久保利通、司馬遼太郎、盛田昭夫、小倉昌男、佐々木常夫、西原理恵子、足立康史、竜崎伸也ほか多数。

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