AI 新時代


産経新聞16年6月9日

今日未明の豪雨で山のいたるところから水が噴き出している。

無数の湧き水を集めて流れる香東川

AI 新時代
好むと好まざるとにかかわらず、AI などによって、今後10年、20年、30年と社会、国、世界、経済などが激変するのは間違いない。
産経新聞は6月初旬に「脅威か希望か AI 新時代」という記事を連載していた。6月9日分を抜粋してご紹介します(あくまで変化の一例です)。
【雇用】 決算記事1~2秒で作成
管理職・接客 雇用を奪う
米東海岸の事務機器メーカー。オフィスのパソコンに向かう営業担当者に、1通のメールが届いた。
「フランクへ。君は今週、2件で4万2550㌦の契約をとって、26社の潜在顧客と接触したね。素晴らしい成績だ。でも、まだ年間ノルマの達成ペースからは遅れているよ」
〝送り主〟は人間ではない。米ノースカロライナ州のIT企業、オートメーテッド・インサイツが開発した人工知能(AI)「ワードスミス」が、自動で作成した社員の管理・評価書だ。
ワードスミスは高度な情報処理により、さまざまなデータベースに基づいて人間顔負けの自然な文章を作成する。「データを基に、特化した個別の文章を作成できるのが強みだ」。
〝AI 管理職〟のようなこのシステムは、米イリノイ州に本社を置く個人向け保険大手、オールステートですでに導入されている。
同様にワードスミスを導入したAP通信は、企業決算のデータベースを基に、AI が売上高や利益、市場予想との対比など必要なデータを自動で抽出し、決算記事をわずか1~2秒で作成する。現在は、AI が執筆した4千本あまりの決算記事を配信している。
かつてロボットによる自動化が工場での単純労働の多くを駆逐した。同様に人よりも速く、正確に大量の文書を作成するAI の普及は、知的労働の分野で人の雇用を奪う恐れがある。
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大量のデータから自動で学習を繰り返しAI が独自に進歩する技術「ディープラーニング(深層学習)」により、AI の活用の場は飛躍的に増えた。接客型ロボットとの組み合わせは、すでに私たちの身近にある。
「今日は良い天気ですね。晴れの日って、テンションが上がりませんか?」
家電量販店のコーヒーマシン売り場。店頭の小柄なロボットが買い物客に、身ぶりを交えてこう話しかけた。つかみの会話を終えるとロボットは「何かお探しですか」と、おもむろにセールストークを始めた。
ネスレ日本は2014(平成26)年末からソフトバンクグループの人型ロボット「ペッパー」を家電量販店の売り場などで接客に使っている。ソフトバンクによると、導入店舗の売り上げは15%伸びたという。
法人向けリースの場合、ペッパー1台当たりの導入費用は月5万5千円。アルバイトを1カ月にわたり1日8時間、時給千円で雇った場合、24万円の人件費が必要となる。ペッパーを使えば月18万5千円のコスト削減となる。
顧客情報を蓄えたビッグデータを基に、ペッパーが個人の嗜好に応じたきめ細かな対応が可能になれば、接客業における人の優位性も失われかねない。
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技術革新怠れば「ジリ貧」
10~20年後、日本の約2人に1人は人工知能(AI )に仕事を奪われる―。野村総合研究所がまとめた試算は、雇用における〝暗黒の未来〟を示唆する。対象は事務員や受付など一般的な業務だけでなく、会計監査の係員などデータの分析や特別な知識が要求されるホワイトカラーにも及ぶ。
『コンピューターが仕事を奪う』の著書を持つ国立情報学研究所の新井紀子教授によると、難関の司法試験を課せられた弁護士ですら、AI に置き換わるという。厖大な判例を分析し、訴訟の方針を立てる仕事をAI が肩代わりすれば、業務の負担は大幅に減る。安価に仕事を受ける法律事務所が増え、「将来は数が5割減ってもおかしくない」。
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AI の導入に背を向ければ、私たちの雇用は守れるのか。答えは「ノー」だ。
経済産業省が4月に公表した試算によると、AI やビッグデータなどの技術革新に対応せず、現在の産業構造を維持した場合、2015(平成27)年度に6334万人だった国内従業者数は、2030(平成42)年度で735万人減と1割超の雇用が失われるという。
しかも、AI やロボットを生み出す先端分野の業種は海外に流出し、中核を成す付加価値の高い業種も縮小、AI で代替可能な業種での雇用が増え、低賃金化が進む、という見通しだ。
半面、AI などの技術革新を積極的に取り込んだ場合の試算でも、2030(平成42)年度の国内雇用は161万人減少する。経産省幹部は「AI の進化で産業再編や雇用の流動化は避けられない」と認めつつ、「痛みを伴う転換をするか、安定したジリ貧をとるかの違いだ」と指摘し、技術革新への対応を急ぐべきだと強調する。
AI やロボットを生み出す技術者、高付加価値な企画・サービスなど一部の就業者に富が集中し、仕事を奪われた人々との格差拡大は避けられない。AI による技術革新に対応した、社会や経済、教育などあらゆる制度改革が急務となる。
以上