中国の「力の空白」と「熟柿(じゅくし)作戦」

ニューズウィーク日本版16年11月15日号
トランプ大統領。考えられないことではなかったが、いざ現実になるとやはり衝撃的。フィットネスクラブのロッカールームではこの話でもちきりであった。望むらくは、トランプ氏が排外主義をやめて、現実的になることを。

週刊新潮16年11月10日号
中国がここ70年間南シナ海でどういうことをやってきたががよく分かる。キーワードは「力の空白」と「熟柿作戦」。中国とはこういう国である。北朝鮮の危険性は言わずもがな。「非武装中立」とは「力の空白」に他ならない。紛争・戦争を招くことは必定。

各国の反対を押して中国が軍事基地化する西沙諸島。

産経新聞16年11月1日
中国は自由もなければ、民主主義もない、法治主義でもない。約束を守らない。例えば、休戦協定を守らないことと、最近になって分かってきたことであるが、共産軍が国民党軍と日本軍双方に銃弾を撃ち込んで戦わせ、漁夫の利を得ようとしたこと、捕らえた日本軍兵士に極めて残虐なことをしたことなどで、日本軍はズルズルと泥沼に引きずり込まれた。

週刊東洋経済16年11月12日号
日本は、日米同盟を基軸としつつ、自主防衛力を強化しなければならない。
中国の「力の空白」と「熟柿作戦」
トランプ氏が次期アメリカ大統領になることが決まった。2013年3月にオバマ大統領は「アメリカは世界の警察官ではない」と言った。世界のいたるところで紛争が多発しだした。ヒラリー氏が大統領になったとしても、このアメリカの内向きの流れは変えられるとは思えない。遅かれ早かれ日本はもっと自立しなくてはならない。
週刊新潮11月10日号に元外交官の宮家邦彦(みやけ)さんがフィリピンのドゥテルテ大統領と南シナ海について書いている。中国の行動原理がよく分かる。抜粋してご紹介します。
.......... ...........
ドゥテルテ大統領と南シナ海の地政学
フィリピンの「暴言王」、ドゥテルテ大統領が10月25日から公式実務訪問賓客として訪日した。
大統領の判断は意外に戦略的である。今、フィリピンが対中強硬姿勢を続ければ、中国は実力行使も辞さない。フィリピンにとって今は戦いを覚悟するよりも、産業構造転換などで自国経済を強化する時だ。
現時点で優先すべきは大規模経済援助の獲得と沿岸警備隊の増強だが、その両方を支援できる国は日本だけ。だからこそ、ドゥテルテ大統領は到着直後から日本への謝辞を繰り返したのだろう。
この見立ては南シナ海の地政学から見ても正鵠を射ていると考える。南シナ海は北の中国、東のフィリピン、西のマレーシア、ブルネイ、インドネシアに囲まれ、数多くの小島やサンゴ礁が散在する広大な海域だが、つい最近までどの沿岸国も全域の支配を確立できなかった。
この海で中国が影響力を拡大できたプロセスには一定のパターンがある。キーワードは力の空白と熟柿(じゅくし)作戦。
改めて第二次大戦以降の歴史を振り返ってみよう。
●1950年代
フランス軍の仏印撤退で「西沙諸島」の半分を占拠。
●1973~4年
ベトナムからの米軍撤退で「西沙諸島」全体を占拠。
●1980年代後半
在越(ベトナム)ソ連軍の縮小で「南沙諸島」の6か所を占拠。
● 1990年代前半
在比米軍撤退後にミスチーフ礁を占拠。
●2000年代
南シナ海の南部への進出を加速。
●2012年以降
フィリピンEEZ内のスカボロー礁を占拠、「南沙」で大規模埋め立てを実施。
●2014年
米比が米軍のプレゼンスを強化する新協定を締結。
要するに過去70年間、中国は時々の強国が地域から撤退し「力の空白」が生じる度に、その空白を埋める形で拠点を増やした。そして柿が熟すのを待つように既成事実を進めた。
さらに興味深いことは、これらの岩礁がいずれも地盤の固い、大規模埋め立てに耐えるものであることだ。
中国は南シナ海で闇雲に岩礁を占拠したのではない。将来の軍事利用に適する場所を、周到な計画に基づいて確保してきたのだ。
大衆迎合主義ナショナリストのドゥテルテ大統領が「親中」のはずはない。領有権での対中譲歩は政治的自殺行為だからだ。しかも、南シナ海の軍事化の主体は人民解放軍だから、フィリピン海軍では太刀打ちできない。この筋金入り「反米左派」の新大統領と米国との関係は当面ギクシャクするだろう。
となれば今、フィリピンが頼れるのは日本しかない。これがフィリピンと南シナ海をめぐる地政学的な現実であろう。
フィリピンで日本が果たすべき役割は、経済のみならず、政治・安保面でも拡大する。
以上