『82年生まれ、キム・ジヨン』★★★★☆

(筑摩書房) 1620円 韓国のベストセラー書 ★★★★☆

毎日新聞19年1月6日 書評

週刊朝日19年2月1日号 書評

日経新聞19年3月9日 広告
「8万部突破」とか。20万部くらいいくか?
映画化決定、17か国で翻訳決定とのこと。

呉 善花(お・そんふぁ)さんの出世作 1382円 ★★★★★★(5点満点の6点) コリアを理解するための必読書。
角川文庫にもあります。恐らく6百数十円。是非お読みください。

(講談社学術文庫)1782円 ★★★★★★★(5点満点の7点) 1900年以前のコリアがよく分かる。コリアを理解するための必読書。何回も読んだし、これからも読むだろう。

ハクモクレンが咲きだした。
今年は1月末からの鼻かぜ+花粉症でぐしゃぐしゃ。目はチカチカするし…。
『82年生まれ、キム・ジヨン』★★★★☆
週刊朝日2019年2月1日号の長薗安浩さんの書評を抜粋、少し編集してご紹介します。
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2016年秋に韓国で発売されたチョ・ナムジョの小説『82年生まれ、キム・ジヨン』は、100万部を超えるベストセラーとなった。
主人公は、1982年に生まれたキム・ジヨン。両親、祖母、姉、弟の6人家族で育った彼女は、まじめに勉強し、大学へ進み、恋も経験しながら就職活動で苦労し、どうにか入社した会社でよく働き、結婚して妊娠後に退職。
育児をしながら働くことを模索するうちに、自分の母親や友人が憑依するようになり、夫に連れられて精神科を受診する――小説は彼女を担当した精神科医が書いたカウンセリングの記録という体裁をとっている。
キム・ジヨンが異常をきたした原因は、韓国に深く根づいた女性蔑視にあった。成績が良くても、進学ではなく兄弟を助けるために働くことを求められた母親世代よりはましとはいえ、彼女たちは女性というだけで、就職も担当する仕事も給与も差別されつづけた。
それらを裏づける統計データも文中に登場し、同国の女性がいかに厳しい条件下で働いているか、よくわかる。キム・ジヨンに憑依した母親や友人の赤裸々な発言は、抑圧に耐えてきた普通の韓国女性の叫びのようだった。
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(感想・意見など)
韓国で100万部を超えるベストセラーになった(人口比でいえば日本なら250万部ということになる)ということもあり、各新聞が書評に取り上げていた。そのほとんどが韓国の女性差別のひどさに焦点を当てている。
確かにそれはそうなのではあるが、昔のコリアを知る者にとっては、韓国もかなり良くなってきているなぁというのが正直なところである。
コリアの弊害の多くは、『スカートの風』で呉善花(お・そんふぁ)さんも指摘しているが、519年続いた李氏朝鮮が導入した朱子学にある(韓国は古代から1910年の日韓併合でいきなり近代に入った)。
李氏朝鮮時代の女性蔑視は極端なものがあった。再婚したことがバレた女性は棍棒で打ち据えられたりした(貞女は二夫にまみえずか?性差別だけではなく、職業差別、地域差別等々とにかく差別が酷い)。ほとんど人間扱いされない。本当かどうか分からないが、女の子には名前さえつけないということもあったという。
「女三界に家なし」と言われるが、恋に破れた女(=処女でないとみなされる)や離婚した女は実家も相手にせず、仕事もなく、身の置きどころがなかった。昔は、離婚して帰って来た娘に、家の恥として、親が毒入りのお茶をすすめることもあったという。だから、殴られても蹴られても辛抱するしかなかった。
呉善花さんは4年間の兵役を経験している。入隊テストに処女審査があったという。審査は毎年1回行われ、処女でないと判定されれば即刻軍隊から追放されたという(さすがに現在ではないと思うが…)。
呉善花さんは書いている。
「処女ではない未婚の女が韓国で生きていく道は、酒場のホステスか売春婦しかないと言っても、決しておおげさではない」
「韓国の女たちに勇気をもって離婚する者が増えているのには、家から離れても女を受け容れてくれる日本の社会の存在が大きい。事実、日本で働くことをあてにして、泣き寝入りをやめて離婚したと私に話してくれた女性を何人も知っている」
「近年、韓国の女たちの間でささやかれるようになった言葉が、『離婚したら日本へ行け』なのである」(30年前の話ではあるが…)。
以前紹介した朴沙羅さんの『家(チベ)の歴史を書く』にも書いていたが、韓国から密入国するに際し韓国・日本にいろいろな韓国人ブローカー組織があったという。
『スカートの風』にも、韓国に居場所をなくした女たちを日本に送り込み(ビザ、偽装結婚の斡旋など)ホステス・売春婦として仕事を斡旋するいろいろな韓国人ブローカー組織があると書いている。日本には仕事があり、やさしい男もたくさんいるのでお金を稼ぎやすく、彼女たちのほとんどは日本に永住することを望んでいるという。
「あるとき、私は知人を介して韓国人のブローカーに会うチャンスを得た。『もう充分でしょう?そんなに儲けて。それなのになぜ、まだ飽きずに女たちを日本へ送りこもうとするんですか』」
「男の目つきが一瞬変わった。『女たちが私を必要としているんですよ。とくに私のようなベテランは彼女たちにとってはなくてはならない存在でね、私がいなくてあの女たちはどうやって暮らしていけると思いますか?』」
「そして彼は最後にきっぱりとこう言った。韓国ではこの女たちは暮らしていけない――と」
(何年か前に、韓国女性家族部だったかが、韓国人売春婦が世界中に10万人いて、内日本には5万人いると発表していた)
この『82年生まれ、キム・ジヨン』を読んで初めて知ったことであるが、韓国も制度はそれなりに整ってきている。
・2005年に戸主制度は違憲とされ、戸主制度廃止を主たる内容とする改正民法が公布され、2008年1月から施行された。
もはや韓国には戸籍はなく、登録簿だけがある。
・子が必ず父親の姓を継がなくてはならないわけではない。婚姻届けを出す際に夫婦が合意すれば母親の姓と本貫を継ぐこともできる。しかし、子が母親の姓を継いだケースは、毎年200件内外にすぎない。
・2013年から0~5歳児の保育が無償化された。
・「本来は、2年以上働いたら正規職に転換させないといけないんじゃないですか?」
「あらー、そんなうぶなこと言っちゃって。労働契約書を交わしたり、四大保険に加入したりしてくれるアルバイト先なんて、ありませんよ」
・小学校に入った子どもは、授業が終わると午後は学童保育で過ごし…。
呉善花さんも『スカートの風』にこう書いている。
・韓国では親の財産は息子だけに相続権があったが、1991年からは娘にも財産相続権が認められるようになっている。
しかし、こうも書いている。
「しかし、これまでの例からも、法律の改革がそのまま社会改革につながる展望はきわめて薄い」
「近代国家がどこでも体験してきた民主化運動をそのまま真似ただけでは、韓国は変わることはないだろう。何かまだ、私たちには見えない、あるいは気がつかないものがあって、それを韓国人自身が発見しない限り展望は開けない。私はそれを映し出すひとつの鏡を日本が持っているように思えてならない」。
そうはいっても、韓国も少しづつは変わっている。私にも分からないが、「朱子学の呪縛」から逃れること、「事実を事実として認める態度」が基盤になるように思われる(法の最高位に「国民情緒法」があると言われているようではダメである)。
以上