生活保護による「治療費受給者」と「非受給者」

生活保護による「治療費受給者」と「非受給者」 リベラルタイム14年2月号
生活保護による「治療費受給者」と「非受給者」





 生活保護による「治療費受給者」と「非受給者」


 NHK記者から医師に転身した野田 一成のだ・かずしげ)さんのリベラルタイム14年2月号のコラムをご紹介します。


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 私の外来に50歳代の夫婦が訪れた。夫は、風邪の症状で受診した近所のクリニックで、胸のレントゲン写真に写った腫瘍を指摘された。私はファイバースコープで腫瘍の細胞を検査し、肺がんと診断した。がんはすでにリンパに転移しており、進行がん。手術はできない状況であるため、抗がん剤による治療をお勧めした。同時に余命についても厳しい内容を告知した。

 「費用はどれだけかかるでしょうか」

 夫の顔色を見ながら切り出したのは、だった。一年前に夫の会社が倒産。3カ月前になんとか別の会社に就職できたが、給料は以前の6割程度。再就職した直後に、治療のための休暇を取ることは憚られるという。妻もパートタイムで生活を支えている。

 失業した折、これまで加入していた医療保険を解約しているため、頼れる保険がない。この夫婦のように、生活のため保険を解約し、その直後にがんと診断された患者を、私は何人も経験している。

 病院の福祉担当者に連絡し、夫婦の収入をもとに費用を計算してもらった。高額医療費制度を使えば、およそ2週間の入院で、支払額を5万~6万にまで抑えられることがわかった。

 検査はできるだけ外来で行い、仕事を休む日数を少なくすることを提案した。入院後は、テレビを観るためのプリペイドカードも購入しない、徹底した倹約ぶりだった。

 約一年半の闘病生活ののち、患者は他界された。



 同じく50歳代後半の男性一人暮らしで定職には就いておらず、生活保護を受けている。血痰が出て私の外来を受診、進行肺がんと診断した。

 外来ではいつもアルコールの臭いがしており、私は病状を正確に説明するため、隣町に住んでいる2人の娘に外来への同行をお願いした。2人とも家庭を持ち、それなりの暮らしをしている。身なりも清潔だった。

 「生活保護で治療費の心配はないので、できる限りの治療をしてください」
 娘は口を揃っていった。

 生活保護法の医療扶助制度では、医師が必要と認める治療は、特殊なものを除いてほぼ認められる。私は必ず、税金で治療を受ける以上、治療に真剣に向き合うよう念を押すようにしている。

 しかし結局、入院期間中、娘達は一度も見舞いには訪れず、患者は入院中度々病院を無断で抜け出し、馬券の購入や喫煙をくり返していた



 生活保護制度は、セーフティーネットとして必要不可欠であることに異論はなく、受給者にも適切な治療を提供すべきなのは、いうまでもない。しかし、前述の2人のケースを何度も経験すると、保護を受けずにギリギリの生活をしている人より、保護の受給者の方が、「気軽に」医療の恩恵を享受できる現状に、やるせなさや不条理さを感じることがある。

 いま問題となっている不正受給とは異なるが、受給者と、瀬戸際で頑張っている非受給者の状況が逆転してしまう現状は、何らかの形で是正すべきではないか

 私の意見には賛否があるだろうが、生活保護の給付のあり方を論じる際、「弱者の切り捨て」という常套句で思考停止することだけは避け、未来を見つめた議論が行われることを望みたい


以上


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プロフィール

teccyan88

Author:teccyan88
団塊の世代(♂)。うどん県高松市生まれ。大学は京都。20数年の会社員生活(四国各地・東京・広島・福岡勤務、主として経営管理・企画畑を歩む)の後、早期退職しUターン。専門学校(3年)ののち自営業。
趣味:読書、水泳、水中ウォーキング。
尊敬する人(敬称略):空海、緒方洪庵、勝海舟、大久保利通、司馬遼太郎、盛田昭夫、小倉昌男、佐々木常夫、西原理恵子ほか多数。

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