中国膨張の要は国家資本主義







技術は盗られ、無茶な安値攻勢はかけられ。
中国膨張の要は国家資本主義
日本は、明治時代、八幡製鉄や富岡製糸場など国営→民営という流れをたどった。日本の発展過程は、その後アジア諸国のモデルとなった。中国もそうするものと思っていたが、どうやら違うようである。
産経新聞11月26日「正論」欄に拓殖大学総長 渡辺 利夫さんがコラムを寄せている。抜粋してご紹介します。
中国膨張の要は国家資本主義だ
中国は計画経済部門を縮小し、民営化の推進や外資系企業の導入を通じて高成長を実現したというイメージを抱く人が多いが、誤解である。
中国の市場経済化は2000年代に入って間もなく終焉し、その後はステートキャピタリズム(国家資本主義)ともいうべき経済へと変質した。以降、中国の成長牽引車は、中央政府が管轄する独占的企業群となった。
資源、エネルギー、通信、鉄道、金融の5分野の特定国有企業が国務院直属の資産管理監督委員会の直轄化におかれ、「央企」と略称される。
政治権力と結託した「央企」
央企は約11万社の国有企業のうち113社である。「フォーチュン」誌の世界売上高上位500社の中で中国は91社、日本の57社を上回る。91社のほとんどが央企である。上位10社には、3位に中国石油化工(シノペック)、4位に石油天然気(中国石油)、7位に国家電網(ステートグリッド)が名を連ねる。
これら央企が、公共事業受注や銀行融資の豊かな恩恵に浴して高利潤を謳歌している。国有企業11万社の利潤総額ならびに納税総額でそれぞれ60%、56%を占める。
事業規模に応じて傘下に子会社を擁し、事業数は2万2千に及ぶ。中国経済の命脈を制するこれら企業群が、共産党独裁の財政的基盤。トップマネジメントは各級党幹部とそれに連なる人々が占める。央企の傘下に重層的に形成されたこの国有企業群は、誰もが制することのできない強固な権益集団と化している。
中国企業の伝統は「官僚資本」。企業が政治権力と結託して、資産規模の極大化を図る中国流の企業形態である。
国家資本の潤沢な恵与を受けて拡大する央企の力量を、海外に向けて放出しようというのが、中国の国際経済戦略の要である。
金融秩序への新たな挑戦
10月24日、東南アジアと中東の21カ国の代表を北京に集め、「アジアインフラ投資銀行」(AⅠⅠB)の基本合意書の調印が行われた。設立資金1千億㌦のうち500億㌦を中国が出資、銀行の本部は北京に置き、総裁は中国高官。開発途上国の陸上・海上のインフラ、エネルギーインフラの高まる建設需要に央企の供給力をもって応じ、その海外進出を促すというのが銀行設立の狙いである。
中国主導の下でインフラ網を構築し、これにより日本主導のアジア開発銀行(ADB)の地位を相対化させる戦略。西沙諸島、南沙諸島をめぐって軍事的緊張をはらむベトナム、フィリピンをAIIBに誘う一方、日本、米国が調印式に招かれていないのはその戦略ゆえであろう。
7月15日には、中国、インド、ブラジル、南アフリカの新興5か国(BRICS)の首脳会談がブラジルで開かれ、5カ国それぞれが100億㌦を出資して500億㌦の資本金をもつ「新開発銀行」(NDB)の設立が合意された。開発途上国ノインフラ関連投資への金融支援が目的とされる。
同時に、経済危機に陥った国への緊急融資に1千億㌦の外貨準備基金を創設、うち410億㌦を中国が担う。国際通貨基金(IMF)・世界銀行による旧来の金融秩序への挑戦である。
限界まで膨れる社会的不満
央企という独占的企業集団を擁して国家資本主義の道を突き進む中国は、膨大な国家資本をもって新たな金融秩序の形成者たろうとする意思を固め、米中の覇権争奪戦の一方の雄をめざしている。
恐るべきは軍事力増強ばかりではない。BRICSや開発途上国において力量を発揮し、彼らをみずからの影響圏に誘い込み、その加勢を得て「中華民族の偉大なる復興」への道を歩む。
貧困農民のとめどない都市流入、少数民族の抵抗、環境劣化、官僚の腐敗・汚職、所得格差の拡大は、すでにおぞましいレベルに達している。限界ぎりぎりにまで膨れ上げる中国の社会的不満に国内政策で対応する術(すべ)は、「和諧社会」実現を求めて挫折した胡錦濤前政権で尽きた。
習近平政権は対外膨張路線によりフロンテイアを拡大し、そこで得られる富と権威で内政に臨もうと決意したのであろう。
第一次大戦後に追い詰められたドイツ国民の鬱積する不満が、アドルフ・ヒトラーをして激しい対外侵略に駆り立てた真因である。
膨張する中国の帰結がいかようであれ、備えに怠りがあっていいはずがない。
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(感想・意見など)
中国は、それぞれの地方政府や人民解放軍が投資をして作った工場や設備が過剰になっている。それを中央政府が強権的に介入し、過剰設備を爆破して、過剰を解消しようとしている。
あくまで一例であるが、ドイツのQセルズという太陽電池メーカーは、2008年には世界1位の売上高を誇ったが、2012年には中国企業の安売り攻勢に敗れ倒産した。一私企業では、国家を後ろ盾にした国家資本主義の企業群にはかなわない。
中国では、土地は国有のため、政府が道を作る、鉄道を敷設する、マンション群を造るなどと決めたら、庶民や農民には貧弱な代替地を与え、即座に強制収容する。そして、そこからあがる収益の何割かは、共産党幹部やそれに連なる権益集団に流れる。年間20万件にも達するという民衆暴動が起きるわけである。人権も何もあったものではない。
中国企業は、資源を求めて、アフリカ諸国になだれ込んでいる。そこでは、機材はすべて中国から持ち込み、つらい鉱夫仕事以外は、料理人も含めすべて中国人がこなし(100万人とも200万人とも)、現地の雇用増にはほとんど役立っていない。現地では、賄賂で、独裁者とそれに連なる役人が儲かるだけである。環境には全く配慮せず、鉱夫仕事も奴隷状態に近く、現地人の暴動で中国人が殺されたりしている。腐敗と環境汚染を輸出している。
中華人民共和国といい、朝鮮民主主義人民共和国といい、これほど皮肉な国名はない。これらの国のやり方がグローバルスタンダードになっていいわけがない。いずれもついこの間まで朝日新聞が称揚していた隣国である。
以上