インドe政府への挑戦
週刊ポスト16年9月2日号
フィンランドのすぐ南がエストニア。
毎日新聞17年2月16日
朝日新聞17年2月16日
インドは間もなく人口で中国を抜く。核兵器を所有し、宇宙開発も盛ん。インド人は数学に強く、ICT関係の技術者の最大供給国。非常に矛盾に満ちた国であるが、あなどれない。
インドe政府への挑戦
2016年10月3日のブログ「e政府」でエストニアの事例をご紹介した。今日、2月16日の毎日新聞に東大教授・坂村健さんがインドの事例を書いていた。
エストニアは人口130万人程度、インドはその千倍の13億人である。大いなる挑戦と言える(因みに日本はエストニアの約百倍の1億3千万人)。
まず、16年10月3日のブログ「e政府」でエストニアの事例を抜粋して再録します。
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週刊ポスト2016年9月2日号で大前研一さんが〝自動行政〟について触れている。抜粋してご紹介します。
〝自動運転〟ならぬ〝自動行政〟の実現こそ急務である
自動運転ならぬ〝自動行政〟は、すでに海外で実証されている。エストニアの「e ガバメント(電子政府)」だ。
人口約131万人の小国だが、世界で最も進んだ国民DB(データベース)を構築し、国民はICチップの入ったIDカード(身分証明書)を所持することで、国民DBからすべての行政サービスを受けることができる。国民IDのチップを格納したSIMカード入りのスマートフォンからも、eガバメントポータルへのログインや電子文書への署名も可能になっている。
スマホさえあれば、住民登録から年金や保険の手続き、納税などが簡単にできてしまうのだ。このためエストニアでは税理士や会計士が不要になり、それらの職業は消滅したのである。
選挙の投票もeガバメントによる〝自動行政〟になれば、いつでもどこからでも電子投票ができるようになる。本人確認さえできればよいので、指紋、声紋、眼球の虹彩などを使ったバイオメトリクスと組み合わせれば簡単だ。実際、エストニアでは世界中どこにいても1週間前から投票できる。しかも、午後8時に投票を締め切ったとすると8時1分には結果が出るので、人手に頼った役所の開票作業もマスコミの出口調査も不要になる。
このシステムが出来上がれば、消費税や所得税、相続税などの税率も自動的に変更・調整できるし、そうやって把握した税収の状況をビッグデータとして活用すれば、適正な税金体系も構築できる。
さらに、公共工事の進捗状況や工事を請け負っている会社の経営状態などもすべて電子的に捕捉できるので、国や地方自治体の予算に透明性が出る。公共工事の入札も公明正大になるから、政治家に袖の下を渡して口利きを頼む必要もなくなる。
この〝自動行政〟が実現すれば、今いる国や地方自治体の公務員の多くはコンピューターに置き換えられて失業の憂き目に遭うかもしれない。(日本において)おそらくは1000万人規模の失業者が出るだろう。だが、介護・医療・保育・警備など、これからまだまだ人手が必要な仕事は山ほどあるので、そうした分野に人材がシフトしていくようにすればよい。
再教育してICT(情報通信技術)のエンジニアなどになってもらうという手もあるだろう。
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次に、毎日新聞2017年2月16日、坂村健さんのコラムをご紹介します。
インドの挑戦
昨年11月、「インドで高額紙幣が突然廃止されて大混乱」という報道があった。主要なメディアの報道では不正な資金のあぶり出しが目的としか書かれていなかったが、実はこの話は私の専門分野のICT(情報通信技術)に関係する大計画の一部なのだ。
モディ政権のすすめる「デジタルインド計画」の大きな柱が完全キャッシュレス化。その文脈で考えると、混乱を生んだ代替新紙幣発行の少なさも合点がいく。
北欧でもキャシュレス化が進んでいる。例えば、タクシーで現金を出すと拒否されることもある。日本では個人タクシーでクレジット手数料に愚痴をこぼされることもあるが、強盗のリスクも、釣り銭用意や現金計算、夜間金庫に帳簿付けといった事務処理コストも現金のせい。昔から負担しているので「当然」と思い込んでいるだけで、今や電子化で削減可能なのだ。
さらに北欧の数十%という高い消費税による「富の再配分」モデルでは所得の完全補足、インチキをする人をなくすことがモラル維持の基本。そのためにもキャッシュレスが望ましい。
インドと北欧では「不正」のレベルは桁違いだろうが、コスト低減と完全捕捉という目的は基本的に同じ。というか、その切実さからか北欧よりも過激だ。
まず北欧では当たり前の国民番号。インドでは10年前には人口の半分が身分証明書を持たない状況だった。そこで2009年から12桁の識別番号を国民に割り振った。番号は国家データベースに収められた顔写真、指紋10個と虹彩スキャン2個と電子署名用の秘密鍵に結びついている。
これを利用して公的補助金や失業給付制度で不正防止とムダの削減をし、政府は14~15年だけで19億㌦(約2200億円)節約したという。
北欧よりもすごいのは次だ。キャッシュレス化に必要なのが口座ということで、インドのほとんどの世帯に無料で銀行口座を与えるという。24時間即時送金ができ、民間と比べ取引コストが低いという優れもの。
卒業証明書や投票カードなど人生で重要なデータの保管スペースを国民全員に提供する計画も始まっている。1人当たり1ギガバイトを用意するという。しかも、これらの機能はすべてオープンなコンピューター間インターフェースにより実現。民間でもそれを利用したビジネスプログラムやスマートフォンアプリを作れる。
発展途上国の科学技術利用は先進国が取ってきた道とは異なる。例えばアフリカでは固定電話なしに携帯電話があっという間に普及した。過去のしがらみが無いので一気に近道できる。
人工知能の進歩により人間の職がなくなる時代、緻密な「富の再配分」ができるかは社会の根幹を揺るがしかねない課題。経済の透明性と金銭処理の自動化による低コスト化がなければ、それは不可能。インドの挑戦に我々が学ばなければいけない時代はすぐそこに迫っている。
以上